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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)245号 判決

原告

亡勝山惠三訴訟承継人

勝山勝

右訴訟代理人弁護士

小代順治

田島潤

被告

東京都千代田都税事務所長

佐藤紀保

右指定代理人

江原勲

外一名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告が平成八年一月一〇日付けで亡勝山惠三に対してした別紙物件目録記載の土地に係る不動産取得税の賦課決定のうち、課税標準額七億八四一二万円、税額三一三六万四八〇〇円を超える部分を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、原告の亡父勝山惠三(以下「惠三」という。)が取得した土地の時価が固定資産課税台帳の登録価格を大幅に下回っていたにもかかわらず、被告が右登録価格に基づき課税標準額を定めて不動産取得税の賦課決定をしたのは、地方税法(以下「法」という。)七三条の二一第一項の解釈適用を誤るものであるとして、惠三の相続人である原告が、被告に対し、右賦課決定のうち、原告が右土地の適正な時価であると考える金額を課税標準額として算出した税額を超える部分の取消しを求めている事案である。なお、本訴は惠三が提起したものであるが、同人が死亡したため、原告がこれを受継したものである。

一  関係法令の定め

法によれば、不動産取得税の課税標準は、不動産を取得した時における不動産の価格とされ(法七三条の一三第一項)、右の価格とは、適正な時価をいうものとされているが(法七三条五号)、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、原則として、当該登録価格(以下、単に「登録価格」という場合は、固定資産課税台帳に登録された価格をいうものとする。)により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するのもとされ(法七三条の二一第一項本文)、例外的に、当該不動産について、増築、改築、損壊、地目の変換その他特別の事情がある場合において、当該登録価格により難いときは、都道府県知事が自治大臣の定める固定資産評価基準によって、当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとされている(法七三条の二一第一項ただし書、同条二項、一条二項)。

二  争いのない事実等

1  不動産取得の経緯

(一) 惠三は、平成六年中に、株式会社大京(以下「大京」という。)から、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同土地上の建物に関する訴えを東京地方裁判所に提起された(同裁判所平成六年(ワ)第八五八号建物賃料等請求事件。以下、この訴訟事件を「別件訴訟」という。)。

(二) 別件訴訟において、本件土地及び同土地上の建物の持分(一〇万分の一万三八三三)について裁判所が選任した鑑定人である不動産鑑定士小谷芳正による鑑定が行われ、右鑑定人は、本件土地を七億八四一二万円、右建物の持分を五四九一万円と評価した。

(三) 平成七年二月一〇日、別件訴訟において、惠三と大京との間で裁判上の和解が成立した。右和解の骨子は、本件土地を、その鑑定評価額七億八四一二万円から当時惠三が大京に対して有していた債権額七五八万三六六〇円を控除した七億七六五三万六三四〇円で、右建物持分を、その鑑定評価額五四九一万円に概算の消費税額一六五万円を加えた五六五六万円で、惠三が大京から買い取るというものであった。

(四) 惠三は、右和解に従い、同年三月一日、大京に対して売買代金合計八億三三〇九万六三四〇円を支払い、同日、本件土地及び右建物持分を取得し、その所有権移転登記を経由した。

2  不動産取得税賦課決定

(一) 被告は、平成八年一月一〇日付けで、惠三に対し、本件土地の取得について、課税標準額一二億〇九〇〇万円、税額四八三六万円とする不動産取得税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をし、右決定は同月一六日、惠三に通知された(なお、東京都においては、法三条の二、東京都都税条例四条の三第一項に基づき、徴収金の賦課徴収に関する事項は、一定の事項を除き、知事から都税の納税地所管の都税事務所長又は支庁長に委任されている。)。

(二) 本件賦課決定の課税標準額及び税額の算定根拠は次のとおりである。

すなわち、惠三は本件土地を平成七年三月一日に取得しているところ、被告は、法七三条の一三第一項及び七三条の二一第一項の規定に基づき、本件土地の係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を平成七年度の登録価格である一八億一三五〇万円(なお、右の価格は基準年度である平成六年度の価格が据え置かれたものである。)と決定した上、法附則一一条の五第一項(平成八年度法律第一二号による改正前のもの。以下同じ。)の課税標準の特例を適用し、右の価格の三分の二である一二億〇九〇〇万円を本件土地に係る不動産取得税の課税標準とし、右価格に税率四パーセントを乗じて、その税額を四八三六万円と算出した。

3  審査請求

惠三は、本件賦課決定を不服として、平成八年一月三〇日、東京都知事に対し、審査請求をしたが、同知事は、同年九月二日付けで、右審査請求を棄却する旨の裁決を行い、その裁決書は、同月五日、惠三に送達された。

4  訴訟承継

惠三は、本訴提起後、平成九年六月一九日、死亡し、同人の子である原告が、遺言により本件賦課決定の取消しを求める法律上の地位を相続し、本件訴訟を受継した(弁論の全趣旨及び記録上明らかな事実)。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、本件が法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するか否かであり、右争点に付随して、本件が右に該当するとした場合、本件土地に係る不動産取得税の課税標準はいくらとされるべきであるかも問題となる。

右争点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

(原告の主張)

1 平成二年ころのいわゆる「バブルの崩壊」により東京都の地価、とりわけ、二三区内の商業地の地価は大幅に下落し、現在なお値下がり傾向にある。本件土地が所在する東京都千代田区麹町の地域においても、平成二年以降毎年、地価が大幅に下落し続けており、本件土地も同様に毎年その時価は下落し続けている。

他方で、固定資産の評価額については、平成六年度の評価替えの際に大幅に増額され、本件土地についても、平成五年度までは一平方メートル当たり九八万円であったものが、平成六年度には一平方メートル当たり九〇〇万円と約九倍もの大幅な増額評価がされ、その結果、本件土地の登録価格が時価を上回ることとなった。

すなわち、前記二1(二)記載のとおり、惠三が本件土地を取得した時と近接した時点において行われた裁判所の鑑定によれば、本件土地の鑑定評価額は七億八四一二万円とされており、右鑑定評価額こそが本件土地の適正な時価というべきところ、右取得時点での本件土地の登録価格は一八億一三五〇万円であり(右価格は基準年度である平成六年度の登録価格であり、平成七年度の登録価格も右と同額である。)、登録価格が時価を大幅に上回っていたのである。

2 法七三条の二一第一項ただし書は、当該不動産の著しい価格の下落により、公平の見地からみて、その登録価格で課税することが適当でない場合は、適正な価格で課税すべきであるとの趣旨をいうものであり、したがって、右ただし書にいう「特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いとき」には、本件のように地価の急落により、当該不動産の時価が登録価格を下回った場合をも含むものと解すべきである。

3 ところで、最高裁平成四年(行ツ)第一九六号平成六年四月二一日第一小法廷判決・判例時報一四九九号五九頁は、法七三条の二一第一項ただし書の特別の事情を、固定資産税の賦課期日後に生じたものに限定している。

しかしながら、右最高裁判決が右の判断を下した前提は、本件には妥当しない。すなわち、右最高裁判決は、法が、①登録価格については固定資産税の納税者の不服申立ての機会を与えていること、②基準年度の登録価格についても、第二年度、第三年度において「地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これに類する特別の事情」等が生じたため、基準年度ないし第二年度の価格によることが不適当、不均衡となる場合にはこれによらず、当該不動産に類似する不動産の基準年度の価格によることとするなどの規定を設けていることを述べ、これを前提に法七三条の二一第一項ただし書の特別の事情は、国定資産税の賦課期日後に生じたものに限られる旨の判断を示しているが、不動産取得者である原告は登録価格について争える立場にはないのであり、また、平成六年度以降も本件土地を含む東京都内の商業地域においては地価が大幅に下落しているにもかかわらず、平成六年度の登録価格がそのまま平成七年度の登録価格とされており、平成七年度の登録価格の決定自体に重大・明白な瑕疵があるなど、右最高裁判決がその判断の前提としたところは本件には当てはまらないというべきである。

そもそも、不動産取得税の課税標準は「適正な時価」でなければならないのであり、法七三条の二一第一項ただし書が適正課税の観点から個別的救済を図る規定であることを考えると、本件のように登録価格と時価との乖離が著しい場合には、右最高裁判決のように特別の事情を賦課期日後に生じた事情に限定する必要はないのであり、本件は、右ただし書にいう「特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いとき」に該当するというべきである。

4 仮に前記最高裁判決のいうように法七三条の二一第一項ただし書の特別の事情を固定資産税の賦課期日後に生じた事情に限るとしても、次のとおり、本件は、右ただし書にいう「特別の事情がある場合において当該固定資産の価格により難いとき」に該当するというべきである。

(一) まず、本件において、前記最高裁判決にいう「固定資産税の賦課期日」がいつかが問題となるが、惠三が本件土地を取得した平成七年三月一日の時点では、平成七年度の価格は固定資産課税台帳に登録されていなかったのであるから、右賦課期日は平成六年一月一日を意味すると解すべきである。また、仮に右賦課期日が平成七年一月一日であると解したとしても、本件土地については、基準年度である平成六年度の登録価格が据え置かれ、平成七年度の登録価格とされているのであるから、いずれにしても、平成六年一月一日以降の地価の下落を問題とすべきである。

しかして、本件土地に近接した地価公示標準地及び東京都の地価調査基準地である千代田区麹町四丁目四番二の土地の平成六年一月一日現在の公示価格と平成七年一月一日現在の公示価格を比較すると、約二四パーセント下落しており、このような大幅な地価の下落は、法七三条の二一第一項ただし書の特別の事情に該当するというべきである。

(二) 仮に前記最高裁判決にいう「固定資産税の賦課期日」を平成七年一月一日であるとし、かつ、法七三条の二一第一項ただし書の特別の事情が同日より後に生じた事情に限られるとしても、前記土地の平成七年一月一日現在の公示価格と同年七月一日現在の基準地価格を比較すると、約一四パーセント下落しており、このような大幅な地価の下落は、法七三条の二一第一項ただし書の特別の事情に該当するというべきである。

5 以上のとおり、本件については、登録価格により難い特別の事情があるのであるから、法七三条の一三第一項、七三条五項に従って、本件土地の取得時における適正な時価である七億八四一二万円(別件訴訟における鑑定評価額)をもって、本件土地に係る不動産取得税の課税標準額とすべきであり、本件賦課決定のうち、課税標準額七億八四一二万円、税額三一三六万四八〇〇円を超える部分は、違法な賦課決定として取消されるべきである。

(被告の主張)

1 法七三条の二一第一項ただし書は、固定資産課税台帳に価格が登録されている不動産であっても、当該不動産について増築、改築、損壊、地目の変換その他の特別の事情がある場合において、登録価格が甚だしく時価と異なり、登録価格により難いときは、都道府県知事が改めて独自にその価格を決定するものとしている。

ここにいう特別の事情とは、増築、改築、地目の変換等のように家屋又は土地自体に物理的変動があった場合や都市的諸施設の整備等その環境に著しい変動があった場合等をいうものである。そして、登録価格により難いときとは、登録価格が特別の事情により変動後の価格と著しく異なる場合をいうものであり、その差が著しくない場合は、ことさらに当該登録価格と異なった価格を決定すべきではない。

2 本件についてこれをみれば、平成六年度から平成七年度の間において、原告が本件土地を取得した時点までには、本件土地自体に物理的変動があったとか、都市的諸施設の整備等その環境に著しい変動があったという事実はないから、本件土地の価格の決定については、法七三条の二一第一項ただし書の適用はないというべきであり、したがって、本件土地の取得に関して、基準年度である平成六年度の登録価格を課税標準としたことは適法であって、本件賦課決定に違法はない。

なお、原告は、惠三が本件土地を取得した時点において、平成七年度の価格が固定資産課税台帳に登録されていなかった旨主張しているが、本件土地については、平成七年度の価格は基準年度である平成六年度の価格が据え置かれているのであるから、そもそも平成七年度の価格については登録を要しないものである。

3 原告は、別件訴訟において、裁判所において選任された鑑定人によって求められた七億八四一二万円という本件土地の鑑定評価額が、法七三条の一三第一項、七三条五号により、本来、不動産取得税の課税標準となるべき本件土地の価格、すなわち、適正な時価である旨主張する。

しかしながら、右鑑定評価額は、本件土地のうち建物の敷地となっている部分について、底地割合を二〇パーセントとする底地価格を求めているなど、市町村長(東京都の特別区の存する区域においては都知事)が固定資産の登録価格を決定する際の基準となり、かつ、法七三条の二一第一項ただし書により、都道府県知事が不動産取得税の課税標準となる価格を決定する際の基準となる、自治大臣の定める「固定資産評価基準」の評価方式と異なる評価方式を用いて算出されたものであって、右鑑定評価額をもって法の規定する「適正な時価」ということはできない。すなわち、法は、不動産取得税の課税標準となるべき価格を不動産の負担を考慮しない価格、土地についていえば、借地権等の負担のない更地価格としていると解されるのであって、借地権等の存在を前提として評価した右鑑定評価額をもって不動産取得税の課税標準となる価格とすることはできないのである。

第三  当裁判所の判断

一  法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」の意義について

1  前記第一の一記載のとおり、法が、固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産については、原則として、当該価格により当該不動産に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定するものとした趣旨は、固定資産税の課税対象となる土地及び家屋の範囲は、発電所及び変電所が家屋に含まれることを除けば、不動産取得税の課税対象となる不動産と同一であり(法七三条一号ないし三号、三四一条二号、三号)、その価格も同じく適正な時価をいうものとされていること(法七三条五号、三四一条五号)などから、両税における不動産の評価の統一と徴税事務の簡素化を図ったものと解される。

2  すなわち、固定資産税の課税標準は、賦課期日における固定資産の価格で、固定資産課税台帳に登録されたものとされているが(法三四九条)、法は、固定資産課税台帳に登録される固定資産の価格が適正な時価であるようにするため、市町村長等が行う固定資産の評価及び価格の決定は自治大臣により定められた評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(「固定資産評価基準」)に基づいて行うものとし(法三八八条以下参照)、決定された価格については固定資産税の納税者に不服申立ての機会を与える(法四三二条以下参照)などの規定を設け、さらに、このようにして固定資産課税台帳に登録された基準年度の価格についても、第二年度、第三年度において、「地目の変換、家屋の改築又は損壊その他これらに類する特別の事情」等が生じたため、基準年度ないし第二年度の価格によることが不適当、不均衡となる場合には、これによらずに当該不動産に類似する不動産の基準年度の価格に比準する価格によることとする(法三四九条二項、三項参照)などの規定を設けている。

そして、右のようにして評価、決定され、固定資産課税台帳に登録された価格は、基準年度の固定資産税の賦課期日における不動産の時価を示すものというべきであるが、不動産取得税の課税上、不動産の評価の統一性を確保し、また、極めて多数に上る不動産の取引等ごとに当該不動産の価格を評価、決定することの煩雑さを回避し、簡易で効率的な徴税を図るという見地からすれば、右登録価格を当該不動産の取得時の時価として取り扱うことは課税技術的に合理性があり、それによって税負担の公平を損なうなどの支障が生ずることは通常は考えられないことから、法は、都道府県知事が不動産取得税の課税標準である不動産の価格を決定するについては、固定資産課税台帳に当該不動産の価格が登録されている場合には、原則として、右登録価格によりこれを決定するものとしているものと解される。

3  右の法の趣旨に照らすと、法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」とは、当該不動産につき、固定資産税の賦課期日後に増築、改築、損壊、地目の変換その他特別な事情が生じ、その結果、右登録価格が当該不動産の適正な時価を示しているものとみて、右登録価格を不動産取得税の課税標準とすることが公平な税負担という観点からみて看過できない程度に不合理と認められる事態に至った場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成四年(行ツ)第一九六号平成六年四月二一日第一小法廷判決・判例時報一四九九号五九頁参照)。

原告は、不動産の時価と登録価格の乖離が著しい場合には、法七三条の二一第一項ただし書の特別の事情を賦課期日後に生じた事情に限定する必要はない旨主張するが、これまで説示してきたところに照らし、右主張は採用することができない。

4 法七三条の二一第一項ただし書の趣旨が前示のとおりであるとすると、右ただし書にいう「特別の事情」には、当該不動産自体に物理的変動があった場合はもちろん、都市的諸施設の整備など当該不動産の価格に直接影響を与えるような周辺環境の著しい変動があった場合が含まれるほか、賦課期日後に生じた地価の著しい下落といった事情も含まれ得るものと解されるが、地価の下落により当該不動産の取得時の時価が登録価格を下回ったというだけでは、右ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するということはできず(最高裁昭和四六年(行ツ)第九号昭和五一年三月二六日第二小法廷判決・判例時報八一二号四八頁参照)、賦課期日後の地価の下落により、当該不動産の取得時における時価とその登録価格に乖離が生じ、それが公平な税負担の観点からみて看過できない程度に達した場合に初めて、右ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当することになるものというべきである。

5 また、前示のとおり、法七三条の二一第一項ただし書にいう「特別の事情」は、固定資産税の賦課期日後に生じた事由に限られるべきであるが、右にいう「固定資産税の賦課期日」とは、当該不動産の評価が行われ、その価格が決定された年度の固定資産税の賦課期日をいうものと解するのが相当である。けだし、法によれば、固定資産のうち不動産については、税負担の安定と行政事務の簡素化を図るため、原則として、三年ごとにその評価を行い(法四〇九条)、価格を決定した上(法四一〇条)、固定資産課税台帳にその価格を登録するものとされ(法四一一条一項)、第二年度及び第三年度については、原則として、基準年度の登録価格をもってその登録価格とみなしているのであって(同条二項)、このような固定資産の評価及び価格決定の仕組みに照らせば、法七三条の二一第一項ただし書に該当する事態が生じたか否かについては、当該登録価格が決定された年度の固定資産税の賦課期日後の事由を考慮すべきものとするのが、最も合理的であると考えられるからである。

二  本件が法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するか否かについて

1  惠三は、平成七年三月一日に本件土地を取得しているところ、本件土地の平成七年度の登録価格は、基準年度である平成六年度の登録価格(一八億一三五〇万円)が据え置かれているので(なお、この場合は、平成七年度の価格を改めて登録する必要はないものである(法四一一条二項)。)、本件土地は、法七三条の二一第一項本文にいう「固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産」に該当する。

2  そこで、本件が法七三条の二一第一項ただし書にいう「当該固定資産の価格により難いとき」に該当するか否かが問題となるところ、原告は、登録価格により難い特別の事情として地価の著しい下落があったことを主張するので、この点について検討する。

証拠(甲三、一〇の2、3、一一の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、本件土地はその南側で隣接する二筆の土地と一体として、鉄筋コンクリート造地下一階付一〇階建の建物の敷地の用に供されており、右の隣接する二筆の土地は、その南側で幅員約三三メートルの国道(新宿通り)に接面していること、本件土地に近接し、右国道に接面している千代田区麹町四丁目四番二の土地が地価公示標準地及び東京都の地価調査基準地となっているが、右土地の平成六年一月一日現在の公示価格は一平方メートル当たり一〇六〇万円、平成七年一月一日現在の公示価格は一平方メートル当たり八一〇万円であり、両者を比較すると一年間で約二四パーセント下落していること、右土地の同年七月一日現在の基準地価格は一平方メートル当たり七〇〇万円で、平成六年一月一日現在の右公示価格と比較すると、約三四パーセント下落していることが認められ、これらの事実によれば、本件土地についても右土地と同様に時価が下落し、本件土地の登録価格が決定された年度の賦課期日である平成六年一月一日から惠三が本件土地を取得した平成七年三月一日までに約三〇パーセント程度その時価が下落したものと推認することができる。

3 しかしながら、右の程度の地価の下落があったことをもって、登録価格により難い特別の事情といえるかについては、それ自体問題となり得るところであるが、右の点をおくとしても、本件土地に係る不動産取得税については、次のとおり、法附則一一条の五第一項の定める不動産取得税の課税標準の特例が適用になるのであり、右特例により課税標準額が減額される割合と本件土地の時価の下落の程度を比較すれば、本件土地については、登録価格と時価との乖離が公平な税負担の観点から看過し難い程度に達しているということはできない。

すなわち、法附則一一条の五第一項は、宅地評価土地(宅地及び宅地比準土地をいう。)を取得した場合における当該土地の取得に対して課する不動産取得税の課税標準は、法七三条の一三第一項の規定にかかわらず、当該取得が平成六年一月一日から平成八年一二月三一日までの間に行われた場合に限り、当該土地の価格の三分の二(当該取得が平成六年一月一日から同年一二月三一日までの間に行われた場合にあっては、二分の一)の額とするものとしており、平成七年三月一日に行われた惠三の本件土地の取得については右の課税標準の特例が適用になり、平成七年度の登録価格一八億一三五〇万円の三分の二である一二億〇九〇〇万円が課税標準額となるのである。

そうであるとすると、基準年度である平成六年度の固定資産税の賦課期日後、右取得時までに生じた地価の下落については、課税の適正が損なわれないよう十分な法律上の手当てがされているということができるのであって、本件については、いまだ法七三条の二一第一項ただし書を適用しなければならないような事態には至っていないというべきである。

なお、原告は、別件訴訟における本件土地の鑑定評価額である七億八四一二万円をもって、惠三が本件土地を取得した時の本件土地の適正な時価である旨主張し、右価額と本件土地の平成七年度の登録価格ないしは本件賦課決定の課税標準額との乖離を問題としている。しかしながら、法は、固定資産税及び不動産取得税の課税標準となる土地の価格は、土地をその上の権利等の負担がない更地として評価したものとしていると解されるところ、別件訴訟の不動産鑑定評価書(甲三)によれば、右鑑定評価額は、本件土地の一部(81.64平方メートル)について、借地権の負担があることを前提に底地割合を二〇パーセントとする底地価格を求めるなどして、本件土地の価格を求めたものであり、法の予定する更地としての価格を求めたものとはいえないから、右鑑定評価額と本件土地の登録価格とを比較してその乖離を問題にすることは法的に意味をなさないというべきであり、原告の右主張は採用することができない。

4  本件土地に係る不動産取得税の課税標準を決定するについて、その登録価格により難い特別の事情が他に存在するとは認められない。

三  そうすると、被告が法七三条の二一第一項本文により、本件土地の平成七年度の登録価格を前提として、法附則一一条の五第一項に従って課税標準額を決定した本件賦課決定は適法というべきである。

第四  結論

よって、原告の本件請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官青栁馨 裁判官増田稔 裁判官篠田賢治)

別紙物件目録〈省略〉

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